馬券術どおりに買ったら、こうなった。

馬券術どおりじゃないけども。

体調不良により長らくお休みをいただいてしまい、
ご愛読いただいているみなさまには
大変失礼いたしました。
今週より更新を再開いたします。
今後とも、よろしくお願いいたします。

さて、いまさら(と私が言うのも変な話ではありますが……)、
前回の1200m馬券術のおさらいをするのも
いささか時機を失った感は否めない。
今週からは心機一転、
新たな馬券術に取り組みたいと思う。

あまたある馬券術から
どれにすべきか迷いに迷ったが、
最終的にこの馬券術でいくことに決定した。

前走の「人気と着順」だけで100万馬券が当たる法則』(東邦出版刊)

著者は桐生崇史氏。
本来、ギャンブルでは株を主戦場とするという桐生氏だが、
中央競馬が3連単を導入したことから本格的な研究をはじめ、
「前走の人気と着順」に着目することで
大きな馬券を獲れる法則を発見したそうだ。

競馬ライターという職業柄、
新手の馬券術にはなるべく目を通すようにしている私だが、
「前走の人気と着順」だけで成立するのだろうか。
率直なところ、この本を手にしたときの感想はそんなものだった。

たとえば、前走で1番人気に推されながら
道中の不利や展開のアヤで僅差5着に負けた馬を狙う。
そんな「前走の人気と着順」への着目であれば、
別段目新しさはない。
ところが、桐生氏の着目点は想像をはるかに超えていた。

「前走人気と前走着順を掛けて、3の倍数になる馬を狙う」

このくだりを読んだとき、
長寿番組『新婚さんいらっしゃい』の司会である桂三枝よろしく、
大きくのけぞったのは言うまでもない。

たとえば、
「前走2番人気→4着」は
2×4=8で3の倍数にならないから買わない。
「前走5番人気→3着」は
5×3=15で3の倍数だから買う。
そして、3の倍数に該当する馬は全部買う。
桐生氏はこれで数々の超大穴馬券をモノにしているという。

そんなアホな。

そう思ったあなたは極めて正しい。
そもそも、なぜ前走人気と前走着順を掛けなくてはならないのか。
掛けることにどういう意味があるのか。
普通はそう思うだろう。

そして、桐生氏が前走人気と前走着順を掛けて
3倍になった馬を狙う理由について述べた箇所に差し掛かったとき、
私は『ドリフ大爆笑』のコントのオチで大げさに転び、
起きあがったときにメガネがズリ落ちている仲本工事を思い出した。

「なぜだかわからないが、とにかく激走する」

まさに、だめだこりゃ、である。

しかし、いみじくも競馬ライターである私は、
これだけで切り捨てるようなことはしない。
一見オカルトチックな馬券術であろうと、
出目やサインの類でない限りは
なにかしら耳を傾けるべきことがある。
そのことを私は、体験的に知っている。

まず、言えるのが、
「前走人気と前走着順を掛けて、3の倍数になる馬を狙う」
という手法で馬券を買っているのは
間違いなく少数派だということである。

現在の競馬を取り巻く状況を鑑みると、
ライトなファン層が減っており、
馬券の買い方に習熟したコアなファンの占める割合が
非常に高くなっている。
たとえば、自分だけが見つけたとっておきの穴馬が激走したのに、
配当を見て「アレ、これだけしかつかないの?」
とガッカリした経験は
誰しもあるのではないだろうか。

情報があふれる現代とは、
穴馬が穴馬にならない時代である。
いくら自分が人と違った予想をしていると思っていても、
それが常識の範疇に収まっているうちは
結局のところ多数派でしかない。
そして、競馬というギャンブルにおいて多数派であるということは
「控除率の壁に敗れる」ということとほとんどイコールだ。

「前走人気と前走着順を掛けて、3の倍数になる馬を狙う」
という桐生氏の手法は、
少数派であることだけは間違いない。
というとけなしているようで恐縮だが、
まったくそのような意図はない。
誰もが使っていないファクターを用いて予想をするという行為は
その馬券術を支持するかどうかはさておき、
それだけで大きな武器になるのである。
すくなくとも、
おそらく控除率の壁に敗れてしまうであろう
常識的な多数派の予想に比べれば、
勝てる見込みはある。

また、桐生氏は
「なぜだかわからないが、とにかく激走する」に続けて、
このように述べてもいる。

前走で3・6・9着(※前走が3・6・9着なら、
どんな人気と掛け算しても3倍馬になる)になった馬は
厩舎の気合いが入りやすい。
前走が3着の馬なら、厩舎陣営は
「あと一歩がんばれば勝てるのではないか」
と思う。
6着の馬だと
「あと少し調子を上げれば掲示板に載る」
と考えるだろう。
9着なら
「もうちょっと頑張れば賞金をくわえてこれる
(=中央競馬の賞金は基本的に8着まで出る)」

これは説得力のある見方である。
たとえば、前走1着馬の次走は、
現在のルールでは基本的に昇級戦になる。
前走勝ちの好調を維持していたとしても、
昇級戦で通用するかどうかはわからない。
また、前走2着馬の陣営には
「次走も同じぐらいの調子に仕上げればまた好走できる」
という守りの心理が働くかもしれない。
であれば、
「次は勝ちたい、連対したい!」と仕上げてくるであろう
前走3着馬のほうが狙えるのではないか。

もちろん、これがすべてのケースに当てはまるわけではない。
特にG1などでは
前走着順を問わずにどの馬も全力で仕上げてくるから、
こうしたレースで前走着順にこだわりすぎるのは
あまり意味がないだろう。

一方、条件戦では全馬が全馬、
万全の状態でレースに出走してくるわけではない。
ここが勝負とばかりに仕上げてくる馬もいれば、
休み明け初戦で7割程度の状態の馬も混在している。
とにかく出走して運が良ければ賞金をくわえてくるかも、
なんて馬もいる。

そもそも条件戦というのは
同程度の力の馬が走っているというのが前提なのだから、
結果を分けるのは状態やコース適性だろう。
だから、陣営がそのレースにどの程度の意気込みを持っているか
を察知することは、
条件戦の馬券作戦で極めて大きなファクターとなるのだ。

重賞などに比べれば、条件戦の情報は圧倒的に少ない。
だから、実際に勝つ確率とオッズのあいだに
ゆがみが生じやすい。
しかし、誰もが利用している多数派の予想法では、
そのオッズのゆがみをつくことができない。

もっとも、、
「前走人気と前走着順を掛けて、3の倍数になる馬を狙う」
をという手法をそのまま採用するかといえば、
前述したように、
さすがに全面的には支持しかねる。
しかし、この結論の前提となっている
「前走で3・6・9着になった馬は厩舎の気合いが入りやすい」
という部分は掘り下げる価値があるように思う。

だから、
今回は厳密な意味で「馬券術どおり」ではないのだが、
それは、来週からの実戦を通して、
私が買い方のパターンを確立していくということで
お許しいただきたいと思う。

自分では予想しないほうが、当たるのでは…
出川塁(でがわ・るい)

1977年熊本県生まれ。出版社2社で競馬専門誌、競馬書籍の編集に携わり、2007年からフリーライターに。『競馬最強の法則』『サラブレ』を中心に寄稿。得意ジャンルはデータ解析。メインとする競馬のほか、サッカーでも活動中。

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