馬券術どおりに買ったら、こうなった。

最後に微笑むのは天使か、それとも......

先週予想した土曜中山第9Rの汐留特別は、
どうにかこうにか的中に持っていくことができた。



先週は汐留特別と同じ芝1200mで行われる
第5Rの勝ち時計を見て、
高速馬場かどうかを確認して
買い目を決定する両面作戦をとった。
高速馬場であればスピードタイプの先行馬、
そうでなければダートでも走れるような血統の馬を狙う。
これが作戦だった。

その第5Rでは、
1位入線のハングリージャックが降着になってしまったが、
その時計は1分9秒6。
時計の出にくい2歳新馬戦ということを考慮しても、
決して速い時計とは言えない数字である。

したがって、ダート血統を狙う。
そう考えたのだが、
続く第6R、
3歳未勝利(芝1600m)の勝ち時計が1分34秒2、
そして、第8Rの3歳上500万下(芝1800m)も1分46秒5と、
いずれも速い時計が記録されて、
決心が揺らいでくる。
やはり、中山2週目までと同じ高速馬場なのだろうか。

買いたいと思っていたのが、
高速馬場ならメジロアリエルとセンシュアルドレス。
通常の中山の芝に近ければレッドリップスとメリトゥム。
そう決めていたのだが、どうも判断がつきかねる。

そこでオッズを確認すると、
この4頭の単勝を全部買っても
うまく資金を配分すればプラスにもっていけそうな感じである。
我ながら消極的だとは思ったが、
カッコつけて外すより、
ブサイクでも、少額でも、
儲けられたほうがよほどマシである。
すくなくとも私は。

そのレース結果は、
1分7秒5の好時計でレッドリップスが快勝。
アレ?
高速馬場でダート血統の馬が来てしまった?
要するに……結果オーライってこと?

結果オーライを喜んでいては進歩はない。
それはもちろんそうだ。
しかし、
このことは長く競馬をやっていれば
誰もが体感的に知ることだが、
馬券が当たるも外れるも紙一重。
これもまた事実だ。
だからこそ、
結果を精査することが次につながるのである。

この汐留特別は、
1分7秒5の高速決着でスピード馬に有利だった。
そのように考えてしまうかもしれないが、
上がり3ハロンのラップを確認すると違った面が見えてくる。

上がり3ハロンのタイムは34秒3。
これだけを見れば速い上がりで
瞬発力のある馬に有利なレースとも思えるが、
ハロンごとに分解すると、

11秒1-11秒5-11秒7

となる。

つまり、
上がり3ハロンのラップ自体は速いものの、
このレースの後半は一度も加速していないのである。

レース全体のラップを見ても、

12秒1-10秒2-10秒9-11秒1-11秒5-11秒7

と、2ハロン目以降は、すべてラップが落ちている。

つまり、この汐留特別は、
速い時計のスピード決着であることは間違いないが、
減速していく厳しい流れをどれだけ踏ん張れるかという
持久力を問われるレースでもあったのである。

結果、逃げたレッドリップスが快勝。
これまではダートを中心に使われていたが、
ダートの厳しい流れを経験することで
持久力を鍛える効果があったのではないだろうか。
そして、レッドリップス以外の先行馬は
追いかけているうちにバテてしまって後退。
後方待機の馬が2~4着に突っ込んだ、
というレースだったように思えるのだ。

そして、こうした展開は、
芝の中距離以上によくある瞬発力勝負ではなく、
ダートの短距離戦によくあるパターンだ。
こういう展開になれば、
ダートに向いた血統の馬が浮上するのは
決して不思議なことではない。

勝ったレッドリップスの父がフレンチデピュティ。
クロフネなどダートの強豪を多数輩出している。
2着のバイラオーラも、
ダートに強いミスプロ系のトワイニングを父に持っている。

とはいえ、
高速決着だったことも紛れもない事実。
ガチガチのダート血統ではスピード不足になって、
流れにすら乗れずに惨敗という可能性も高い。
その点、レッドリップスとバイラオーラは
母父にサンデーサイレンスが入っており、
高速決着への対応力につながっているのだろう。

ちなみに、
翌日行われた芝1200m戦の勝浦特別も、
1着がミスプロ系のイーグルカフェ産駒、
2着がクロフネ産駒と、
父はいずれもJCダートを勝っており、
やはりダート適性の高い血統のワンツーとなった。
このレースの上がり3ハロンも、

10秒8-11秒0-11秒7

の後傾ラップである。


今週はスプリンターズSが行われる。
言うまでもなく中山芝1200mのレース。
これまでの集大成として臨みたい。

快足自慢が集うスプリントG1。
当然のことながら、
前半は速いラップが刻まれる激流になりやすく、
後半の上がり3ハロンは
どんどん減速していく流れになりやすい。

特に、馬場が荒れたときはその傾向がさらに強まる。
不良馬場になった年のラップを見ると、

04年 12秒0-10秒6-11秒0-11秒5-11秒8-13秒0
07年 12秒0-10秒3-10秒8-11秒1-12秒0-13秒2

となっている。

注目はどちらの年も、
最後の1ハロンが13秒台にまで落ち込んでいること。

ちなみに、良馬場で行われた昨年のラップが、

08年 11秒9-10秒4-11秒3-11秒4-11秒5-11秒5

こうして見ると、
前半のラップは馬場状態が違ってもほとんど変わりなく、
最後の1ハロンだけが急激に落ちていることがわかる。
不良馬場でも前半から飛ばしていくため、
最後はバテバテになってしまうのである。

こういう馬場になると、
バテてしまうのは逃げ・先行馬に限ったことではない。
重たい馬場を追走するのに手一杯で、
後方待機組も末脚を失ってしまう。
不良馬場になった04年も07年も逃げ馬が勝ったのは、
こうした背景がある。

そして、今年も雨の心配がある。
馬場が荒れたらとにかく逃げ馬を狙いたいのだが、
04年のカルストンライトオや
07年のアストンマーチャンのように
誰が見ても逃げるとわかる馬がいないのがネックである。
「この馬が逃げるはず!」と思っても
レースでは全然逃げてくれない……、
という経験は誰でもあるだろう。

かくなるうえは
わかる範囲で予想をするしかない。
中山芝1200mでは、
高速決着であってもダート血統の馬が有利
ということを先週確認した。
そして、スプリンターズSの出走馬を見ると、
ダート血統の馬が意外なほど少ないのだ。

また、近年のスプリンターズSでは、
夏のあいだにレースを使っていた馬が
好成績を収める傾向が強い。
夏の暑い時期にレースを使わず、
調教だけで仕上げていくのは容易ではないからだ。
そのため、
サマースプリントシリーズを使いながら
調子を上げてきた馬が好走するのだ。

4回中山の最終週開催になって以降、
休み明けやセントウルSを叩いて2戦目
という臨戦過程で上位に食い込んだのは
すでにG1で連対した実績のある馬がほとんど。
今年でいえば、
ローレルゲレイロやキンサシャノキセキが該当するが、
どちらも本調子にあるとは思えない。

以上のことを総合して、
狙いたいのは3歳牝馬のグランプリエンゼルである。

父がフェブラリーSなどを勝ったアグネスデジタルで
ダート血統ということに該当。
母父がサンデーサイレンスで
速い時計の決着になっても対応できそうだし、
4走前には重馬場の橘Sを勝っており、
全天候型というのもセールスポイントだ。

先行力も十分にあるし、
内枠が有利なこのコースとはいえ
最内枠などでは揉まれこんでしまう危険もあるが、
3枠6番という枠順もちょうどいいところ。

臨戦過程を見ても、
函館スプリントSで古馬相手に勝ち、
キーンランドCは3着に敗れてしまったが、
前走で走りすぎて余力を失ってしまうよりはよほどいい。
サマースプリントシリーズ優勝を目指して
セントウルSを使うプランもあったようだが、
最終的にスプリンターズS一本に絞ったのも好感が持てる。
1番人気を裏切った前走の影響で
多少なりとも人気を落としそうなのも、
食指が動く理由のひとつだ。

スリープレスナイトが戦線離脱し、
おそらく実力だけなら
豪州年度代表馬のシーニックブラストが最上位だと思う。
短距離路線では豪州馬や香港馬が
世界のトップクラスにあることは、
サイレントウィットネスや
テイクオーヴァーターゲットの強さを目の当たりにした
日本の競馬ファンもよく知っているはずだ。

そのことを認めたうえで、
追い込み一手の脚質がどうにも買えないのである。
スプリンターズSを追い込んで勝ったのは、
近年ではデュランダルぐらいのもの。
道悪では追い込みが効かないのは前述したとおりだし、
3週目までの高速馬場が続いても
やはり後ろから行く馬には不利だろう。

私にとっての天使になってくるかどうか、
それはレースが終わるまでわからないが、
グランプリエンゼルで勝負だ。

自分では予想しないほうが、当たるのでは…
出川塁(でがわ・るい)

1977年熊本県生まれ。出版社2社で競馬専門誌、競馬書籍の編集に携わり、2007年からフリーライターに。『競馬最強の法則』『サラブレ』を中心に寄稿。得意ジャンルはデータ解析。メインとする競馬のほか、サッカーでも活動中。

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