馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

バックナンバー

第68回
皇帝の座に昇り詰めた、「犯罪王」
第67回
太陽のような輝きを放つ「抽せん馬の星」
第66回
あやとり「猫のゆりかご」を馬名にした、日本G1馬のいとこ
第65回
世界的名曲を馬名とした名牝が、2月14日に産んだ娘の名は!?
第64回
有名戦国大名と世界的名種牡馬の意外な関係とは?
第63回
南国土佐で馬名通りの走り示した、ダート短距離戦線の星
第62回
孫娘たちに託された、夏場の快進撃
第61回
馬名から受ける印象を覆した、地に足が着いた名牝
第60回
シブいTVドラマから名付けられた、1976年最優秀古牡馬
第59回
多くの国々を旅した気分を味わえる、個性派G2馬とその兄弟
第58回
倒語で馬名が付いた、1970年代初頭の歴史的名牝
第57回
"鷹" と "犬" が融合した2007年最優秀2歳牡馬
第56回
馬名通りに競馬ファンの "裏をかいた"、マイル戦得意な名牝
第55回
日本でG1を制した、ロンドンのストリート名が付いたアメリカ馬
第54回
世界レコードを樹立した女傑の名は、子供向けの飲み物
第53回
競馬世界の "太陽神" が持つ、複雑な性格
第52回
豊かな才能を全開にした妹を祝福する兄の快走
第51回
爽やかなカクテル名を持つ牝馬に求められるもの
第50回
母系3代に伝わる人名を馬名に戴いた天皇賞馬
第49回
絶対王者の名を冠した菊花賞馬が示した、最高の輝き
第48回
「胡蝶蘭」、「花金鳳花」 という馬名を持つ、華やかな母娘
第47回
インカ帝国の "祝祭" を現代日本に甦らせた一流中距離馬
第46回
複数の大ヒット曲のタイトルと被る、日本競馬の名牝
第45回
女性5人のチームワークとパワーが生んだ "伝説の名牝"
第44回
同じ英語を馬名に持つ、地味な日本馬と欧州のスーパーホース
第43回
「静かなアメリカ人」 が生み出したドラマと皮肉
第42回
偉大なるダンサーの名を受け継いだ記録的長寿馬
第41回
奇妙に重なり合う、同じ名を持つ作家と競走馬の運命
第40回
種牡馬としても成功した菊花賞馬と米音楽界 "ボス" との縁
第39回
"薔薇のために走れ" なかった、「5月の薔薇」
第38回
世にも怖しい名を持つ、G1レース3勝の世界的名馬
第37回
"理力 (=フォース)" を働かせて、英ダービーを圧勝!?
第36回
種牡馬入りして、さらに存在感を高めた 「義賊」
第35回
小さな花から、大きな実を成らす葡萄のように
第34回
競馬世界の織姫星と彦星は、完全なる女性上位
第33回
すべてを与えてくれるのは、いつも "サンデー" !?
第32回
そろそろ"凱旋"のときが待たれる、重賞惜敗続きの名血馬
第31回
馬名にまつわる難解さを吹き飛ばした、超一流馬の競走生活
第30回
さらば、競馬史に残る偉業を達成した地味な名種牡馬!
第29回
香港馬として初めて日本G1競走に勝った「蝦の王様」
第28回
「風神」であるダービー馬の陰に存在した無名の「雷神」
第27回
合衆国に流れ着いた男女が愛を育み誕生した灰色の幽霊」
第26回
「事務局」という名を持つ、20世紀を代表する米の名馬
第25回
ロマンティックに昇華した、夭逝した名牝の競走生活
第24回
黄金世代にも存在した、競馬の世界の "光と陰"
第23回
アルゼンチン最強牝馬の娘の名は 「恋人の日」
第22回
微妙な違和感を覚える馬名が走る米の一流父系
第21回
偉大なるチャンプの軌跡と重なる、短距離王の競走人生
第20回
馬名のスケールも競走馬としても父を上回った "道営の星"
第19回
大物バンドと仏語で繫がる気鋭種牡馬の一流産駒たち
第67回 太陽のような輝きを放つ「抽せん馬の星」

ほんの数年前まで、JRAで行われるレースに、
「抽せん馬」 と呼ばれる馬たちが出走していました。
これは、セリ市でJRAが購入し、
北海道浦河町か、宮崎県宮崎市の牧場で育成、
その後、購入を希望する馬主に抽せんで配布した馬たちのことで、
競馬新聞の出馬表の馬名の上に、
「(マルチュウ)」 の文字が付されていました。
現在に比べれば、セリ市で購買される競走馬がはるかに少なかった時代、
セリ市を活性化し、中小生産牧場の保護にも繋がる抽せん馬制度は、
なかなかに有意義なものでもあったのです。
圧倒的な少数派であり、なおかつ非エリート競走馬の象徴でもあった
抽せん馬ですが、歴史を遡ってみると、
有馬記念を制した名牝スターロッチ、
ともにオークス馬となったファイブホープ、イソノルーブルといった
超大物も出ています。

1980年代半ばに、「抽せん馬の星」 という
ニックネームで呼ばれていた強豪牝馬がコーセイです。
285万円でJRAが購入し、430万円で馬主に頒布されたコーセイは、
2歳時にG3・3歳牝馬Sを制したのを皮切りに、
3歳時にG2・4歳牝馬特別 (桜花賞TR)、4歳時にG3七夕賞、
さらに5歳時にG2中山記念と、重賞を計4勝。
抽せん馬としては最多 (当時)、そして頒布額の約50倍となる、
2億1680万円の生涯賞金を稼ぎ出しました。

さて、コーセイの馬名の由来は 「恒星」 から。
恒星とは、自らが光を発するガス体の天体ことで、
地球の付近では、太陽が、これに当てはまります。
ちなみに、コーセイの2歳上のいとこに、
G3京王杯オータムHで2着したダイワタイヨーという馬がいるのですが、
どうも、コーセイたちが属する一族は、
太陽絡みの馬名と相性が良いようです。

JRAが抽せんで馬主に競走馬を頒布する制度自体が、
2004年度で廃止されたこともあり、
抽せん馬という名称が付く馬は存在しなくなりました。
そして、「抽せん馬の星」 コーセイも、
繁殖牝馬として大きな成果をあげることは出来ず、
その名前がニュースとなることも、ほとんどありません。
しかし、大きな流星を持つ個性的な顔立ちと、
切れ味鋭い走りを誇った名牝コーセイは、
その馬名通り、いまもベテラン競馬ファンの心の中で輝き続けているのです。

(次回は3月2日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉