馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

バックナンバー

第25回
ロマンティックに昇華した、夭逝した名牝の競走生活
第24回
黄金世代にも存在した、競馬の世界の "光と陰"
第23回
アルゼンチン最強牝馬の娘の名は 「恋人の日」
第22回
微妙な違和感を覚える馬名が走る米の一流父系
第21回
偉大なるチャンプの軌跡と重なる、短距離王の競走人生
第20回
馬名のスケールも競走馬としても父を上回った "道営の星"
第19回
大物バンドと仏語で繫がる気鋭種牡馬の一流産駒たち
第18回
"ハワイの大王" を父親に持つ "アカハワイミツスイ"
第17回
現代競馬を代表する名馬は、正真正銘の「世界遺産」!?
第16回
競馬世界の "ルパン3世" 的大泥棒!
第15回
欧州最優秀ステイヤーのルーツに日本の伝統芸能!?
第14回
若き日の悔恨を乗り越え、最後に辿り着いた「黄金」
第13回
馬名がトラブルを予見した!? 世界最高のマイラー
第12回
2000年代最強馬の兄はカリブの大海賊!?
第11回
"深夜の賭け"でカジノが倒産!?
第10回
あの超人気作家の処女作から名付けられた菊花賞馬
第9回
歴史的快挙を達成した父と娘の微妙な関係とは!?
第8回
西部に足を踏み入れなかった"金採掘者"
第7回
まるで違う運命を背負った、同じ名前を持つ馬たち
第6回
歴史的女傑の馬名の由来は"銭やった"!?
第5回
「切れ味の鋭さ、この聖剣に如くものなし」
第4回
日米オークス馬は "男装の麗人" だった!?
第3回
競馬世界の 「寿限無、寿限無・・・」
第2回
母から受け継ぐドイツ競馬の歴史
第1回
メリーランド州から届いたプレゼント
第24回 黄金世代にも存在した、競馬の世界の "光と陰"

日本競馬界を代表するオーナーブリーダーであるメジロ牧場。
その最高のヴィンテージイヤーともいえるのが、
3頭のG1馬が出た、1987年生まれの馬たちです。

この黄金世代のなかで、最初に頭角を顕したのが、
3歳3月のG2弥生賞で重賞初制覇を飾ったメジロライアンでした。
3歳時には、G1皐月賞3着、G1ダービー2着、
G1菊花賞3着、G1有馬記念2着と、
後一歩で大魚を逃し続けたメジロライアンですが、
4歳6月に宝塚記念を勝ち、
ついに念願のG1ウイナーの仲間入りを果たしたのです。

1990年のG1菊花賞でメジロライアンを降して勝利し、
一躍スターダムに駆け上ったのが、メジロマックイーン。
その後も4、5歳時の天皇賞・春、6歳時の宝塚記念と
G1タイトルを4つ積み重ねたメジロマックイーンは、
「日本競馬史に残る名馬中の名馬」 と称えられる存在になりました。

遅れてきた大物が、5歳春のG3新潟大賞典で初重賞勝ちを記録し、
直後のG1宝塚記念、同年暮れのG1有馬記念と
グランプリ連覇を達成したメジロパーマーでした。
4歳秋には、活路を切り開くため、障害レースにも出走した
苦労人メジロパーマーは、「メジロ牧場第三の男」 として、
シブい輝きを放ったのです。

さて、メジロ牧場(メジロ商事)の持ち馬たちには、
毎年共通したテーマに基づく馬名が付けられています。
この1987年生まれの馬たちの場合は、「海外の有名人」。
メジロマックイーンは、映画 『大脱走』、
『タワーリング・インフェルノ』 などで知られる
米の大スター俳優スティーブ・マックイーン (Steve McQueen) から
名付けられていますし、
メジロライアンは、カリフォルニア・エンゼルスなどで大活躍した、
大リーグの速球王、ノーラン・ライアン (Nolan Ryan) が、
馬名の由来となっています。
そして、メジロパーマーは、マスターズを4勝した名ゴルファー、
アーノルド・パーマー (Arnold Palmer) に因んで、馬名が付けられました。

もちろん、この輝かしい1987年生まれの同期生のなかにも、
競走馬として大成できなかった馬たちがいます。
メジロマックイーンと同じく、米の人気俳優の名を冠した
メジロマーフィー (エディ・マーフィ “Eddie Murphy” から命名) は、
4戦して未勝利でしたし、
メジロライアン同様、米プロスポーツ界のスーパースターが
馬名の由来となったメジロタイソン (ボクシング世界ヘビー級王者
マイク・タイソン “Mike Tyson” から命名) も6戦して未勝利、
2ケタ着順が4回という成績で現役を退いています。
また、メジロパーマー同様、著名なプロゴルファー、
グレッグ・ノーマン “Greg Norman” から名付けられた
メジロノーマンは、1戦して8着というキャリアだけで、
その競走生活の幕を閉じました。

あるいは、競馬の世界における成功と失敗は、
本当に紙一重のことなのかもしれません。
ですが、その間には、容易には超えられない、
とてつもなく深い溝が、横たわっているのも事実でしょう。
黄金世代と呼ばれる、メジロ牧場の同期生のなかにも、
競馬の世界を形作る大きな要素である、「光と陰」 は、
厳然として存在していたのです。

(次回は5月5日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉