馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

第7回 まるで違う運命を背負った、同じ名前を持つ馬たち

1983年に日本競馬史上3頭目の三冠馬に輝いたミスターシービーの名前は、
その生産牧場である千明牧場(Chigira Bokujo)から来ています。
つまり、「千明牧場を代表するような馬に育って欲しい」という願いが、
“Mr,C.B.=ミスターシービー” という馬名には、
込められていたのです。

実は、三冠馬に輝いたミスターシービーは、
2代目ということになります。
初代ミスターシービーは、1934年千明牧場生まれ。
大きな勲章は得られませんでしたが、
日本ダービー10着、中山大障碍3着などの成績を収めています。
千明牧場にとって、取っておきの馬名を
46年振りに受け継いだ2代目ミスターシービーは、
牧場関係者の期待に見事に応え、
先代の実績を遥かに上回る、歴史的な偉業を達成したわけです。

ミスターシービー以外にも、2代目となる名馬はいます。
G1を7勝している現役最強牝馬ウオッカも、その一頭。
先代ウオッカは、1993年生まれの牡馬(後にセン馬となる)でした。
栗東の小原伊佐美厩舎に所属していたウオッカは、
中央競馬で7戦して5着が最高着順。
その後、公営新潟に移籍しましたが、
結局、未勝利のまま現役生活を終えました。

2009年秋華賞を制したレッドディザイアも、2代目ということになります。
1998年に生まれた初代レッドディザイアは、
美浦の秋山雅一厩舎に所属しましたが、
レースに出走することはありませんでした。

過去に登録された馬名でも、登録抹消後5年以上を経過していれば、
同じ馬名を付けることができます。
ウオッカもレッドディザイアも、
このルールが適用されて、馬名登録が認められました。

さて、ミスターシービーも、ウオッカも、レッドディザイアも、
その3代目が登場することはありません。
G1レースを制した競走馬と
同じ名前を付けることは禁止されているからです。

考えてみれば、歌舞伎や落語は、
活躍が著しかった人の名前を代々受け継いでいく世界。
一方競馬は、大活躍が叶わなかった名前だけを受け継ぐことができる、
日本の伝統芸能とは正反対のルールを持っているのです。

(次回は1月6日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉