馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

バックナンバー

第36回
種牡馬入りして、さらに存在感を高めた 「義賊」
第35回
小さな花から、大きな実を成らす葡萄のように
第34回
競馬世界の織姫星と彦星は、完全なる女性上位
第33回
すべてを与えてくれるのは、いつも "サンデー" !?
第32回
そろそろ"凱旋"のときが待たれる、重賞惜敗続きの名血馬
第31回
馬名にまつわる難解さを吹き飛ばした、超一流馬の競走生活
第30回
さらば、競馬史に残る偉業を達成した地味な名種牡馬!
第29回
香港馬として初めて日本G1競走に勝った「蝦の王様」
第28回
「風神」であるダービー馬の陰に存在した無名の「雷神」
第27回
合衆国に流れ着いた男女が愛を育み誕生した灰色の幽霊」
第26回
「事務局」という名を持つ、20世紀を代表する米の名馬
第25回
ロマンティックに昇華した、夭逝した名牝の競走生活
第24回
黄金世代にも存在した、競馬の世界の "光と陰"
第23回
アルゼンチン最強牝馬の娘の名は 「恋人の日」
第22回
微妙な違和感を覚える馬名が走る米の一流父系
第21回
偉大なるチャンプの軌跡と重なる、短距離王の競走人生
第20回
馬名のスケールも競走馬としても父を上回った "道営の星"
第19回
大物バンドと仏語で繫がる気鋭種牡馬の一流産駒たち
第18回
"ハワイの大王" を父親に持つ "アカハワイミツスイ"
第17回
現代競馬を代表する名馬は、正真正銘の「世界遺産」!?
第16回
競馬世界の "ルパン3世" 的大泥棒!
第15回
欧州最優秀ステイヤーのルーツに日本の伝統芸能!?
第14回
若き日の悔恨を乗り越え、最後に辿り着いた「黄金」
第13回
馬名がトラブルを予見した!? 世界最高のマイラー
第12回
2000年代最強馬の兄はカリブの大海賊!?
第11回
"深夜の賭け"でカジノが倒産!?
第10回
あの超人気作家の処女作から名付けられた菊花賞馬
第9回
歴史的快挙を達成した父と娘の微妙な関係とは!?
第8回
西部に足を踏み入れなかった"金採掘者"
第7回
まるで違う運命を背負った、同じ名前を持つ馬たち
第6回
歴史的女傑の馬名の由来は"銭やった"!?
第5回
「切れ味の鋭さ、この聖剣に如くものなし」
第4回
日米オークス馬は "男装の麗人" だった!?
第3回
競馬世界の 「寿限無、寿限無・・・」
第2回
母から受け継ぐドイツ競馬の歴史
第1回
メリーランド州から届いたプレゼント
第35回 小さな花から、大きな実を成らす葡萄のように

フランス南西部、ジロンド県全域で作られたワインには、
世界的超有名ブランドである “ボルドー・ワイン” を
名乗る権利が与えられます。
県庁所在地であるボルドー郡をはじめ、
ジロンド県は6つの大きな郡で形成されているのですが、
そのなかのひとつに、リブルヌ郡という地域があります。
リブルヌ郡に属する、人口2,500人足らずの小さな街が、
サンテミリオン(Saint-Emilion)。
ここで作られる、シャトーオーゾンヌ(Ch.Ausone)や、
シャトーシュヴァルプラン(Ch.Cheval-Blanc)は、
熟した果実の香りと芳醇でまろやかな味わいを特徴としていて、
いずれも、ボルドーの “赤” を代表する名品として知られているのです。

サンテミリオンは、ワインの生産だけでなく、
景観の素晴らしさでも、よく知られています。
サンテミリオンなど8つの市町村からなる “サンテミリオン地域” は、
丘の上に連なる中世風の建築物と、
その周辺に広がるワイン畑からなる絶景が高く評価され、
ユネスコの世界遺産にも指定されているのです。

2010年のG1オークスを、アパパネと同着で制したサンテミリオンは、
前述の南西フランスの小さくて美しい街を、馬名の由来としています。
おそらく、その母であるモテック(Moteck)が
フランスで生まれ、当地で走ったことから、
サンテミリオンという馬名が連想されたのでしょう。

さて、ワインの原材料であり、われわれが食すことも多い葡萄は、
果実の部分ということになります。
当然、実がなるためには、花が咲くわけですが、
葡萄の花は、米粒ほどのつぼみから、
おしべがニョキニョキと突き出す構造となっている、
ちょっとびっくりするくらいに、小ぶりなものです。
その貧相な花から、果汁を湛えて、丸々と太った葡萄の実が成ることは、
「これぞ自然の神秘」 と呼ぶに相応しい事象だという気もします。
競走馬サンテミリオンも、フラワーC、
フローラ(Flora=英語で植物、花の意味)Sという、
花に関連した名前の重賞レースを使いながら、
徐々に地力を蓄えていきました。
そして、 “樫の木 (=Oaks、オークス)” に、大きな実を成らせたのです。

(次回は7月21日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉