馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

バックナンバー

第62回
孫娘たちに託された、夏場の快進撃
第61回
馬名から受ける印象を覆した、地に足が着いた名牝
第60回
シブいTVドラマから名付けられた、1976年最優秀古牡馬
第59回
多くの国々を旅した気分を味わえる、個性派G2馬とその兄弟
第58回
倒語で馬名が付いた、1970年代初頭の歴史的名牝
第57回
"鷹" と "犬" が融合した2007年最優秀2歳牡馬
第56回
馬名通りに競馬ファンの "裏をかいた"、マイル戦得意な名牝
第55回
日本でG1を制した、ロンドンのストリート名が付いたアメリカ馬
第54回
世界レコードを樹立した女傑の名は、子供向けの飲み物
第53回
競馬世界の "太陽神" が持つ、複雑な性格
第52回
豊かな才能を全開にした妹を祝福する兄の快走
第51回
爽やかなカクテル名を持つ牝馬に求められるもの
第50回
母系3代に伝わる人名を馬名に戴いた天皇賞馬
第49回
絶対王者の名を冠した菊花賞馬が示した、最高の輝き
第48回
「胡蝶蘭」、「花金鳳花」 という馬名を持つ、華やかな母娘
第47回
インカ帝国の "祝祭" を現代日本に甦らせた一流中距離馬
第46回
複数の大ヒット曲のタイトルと被る、日本競馬の名牝
第45回
女性5人のチームワークとパワーが生んだ "伝説の名牝"
第44回
同じ英語を馬名に持つ、地味な日本馬と欧州のスーパーホース
第43回
「静かなアメリカ人」 が生み出したドラマと皮肉
第42回
偉大なるダンサーの名を受け継いだ記録的長寿馬
第41回
奇妙に重なり合う、同じ名を持つ作家と競走馬の運命
第40回
種牡馬としても成功した菊花賞馬と米音楽界 "ボス" との縁
第39回
"薔薇のために走れ" なかった、「5月の薔薇」
第38回
世にも怖しい名を持つ、G1レース3勝の世界的名馬
第37回
"理力 (=フォース)" を働かせて、英ダービーを圧勝!?
第36回
種牡馬入りして、さらに存在感を高めた 「義賊」
第35回
小さな花から、大きな実を成らす葡萄のように
第34回
競馬世界の織姫星と彦星は、完全なる女性上位
第33回
すべてを与えてくれるのは、いつも "サンデー" !?
第32回
そろそろ"凱旋"のときが待たれる、重賞惜敗続きの名血馬
第31回
馬名にまつわる難解さを吹き飛ばした、超一流馬の競走生活
第30回
さらば、競馬史に残る偉業を達成した地味な名種牡馬!
第29回
香港馬として初めて日本G1競走に勝った「蝦の王様」
第28回
「風神」であるダービー馬の陰に存在した無名の「雷神」
第27回
合衆国に流れ着いた男女が愛を育み誕生した灰色の幽霊」
第26回
「事務局」という名を持つ、20世紀を代表する米の名馬
第25回
ロマンティックに昇華した、夭逝した名牝の競走生活
第24回
黄金世代にも存在した、競馬の世界の "光と陰"
第23回
アルゼンチン最強牝馬の娘の名は 「恋人の日」
第22回
微妙な違和感を覚える馬名が走る米の一流父系
第21回
偉大なるチャンプの軌跡と重なる、短距離王の競走人生
第20回
馬名のスケールも競走馬としても父を上回った "道営の星"
第19回
大物バンドと仏語で繫がる気鋭種牡馬の一流産駒たち
第18回
"ハワイの大王" を父親に持つ "アカハワイミツスイ"
第17回
現代競馬を代表する名馬は、正真正銘の「世界遺産」!?
第16回
競馬世界の "ルパン3世" 的大泥棒!
第15回
欧州最優秀ステイヤーのルーツに日本の伝統芸能!?
第14回
若き日の悔恨を乗り越え、最後に辿り着いた「黄金」
第13回
馬名がトラブルを予見した!? 世界最高のマイラー
第61回 馬名から受ける印象を覆した、地に足が着いた名牝

1980年代後半から1990年代初頭に、
世界的なブームとなった音楽&ダンスにランバダ (Lambada) があります。
このブームの象徴となったのが、
フランスのバンド、カオマ (Kaoma) が歌い世界中で流行した 『ランバダ』 。
日本でも、人気ドラマ『男女7人夏物語』の主題歌 『CHA CHA CHA』 で
お馴染みの女性アーチスト石井明美がカヴァーし、
スマッシュヒットを記録しました。
そして、何と言っても強烈だったのが、この曲に合わせて踊られるダンス。
もの凄い密着態勢をとった男女のカップルが、
お互いに片足を股間に差し入れ、
あたかも局部を刺激し合うようにして展開されるエロチックな踊りは、
ある意味、盛りの付いた犬たちの様子を
思い起こさせてくれるものでもあったのです。

これは、ランバダに限ったことではありませんが、
あまりに強烈な印象を与える流行モノほど、飽きられるのも早いもの。
ランバダブームも1年足らずで、すっかり沈静化し、
アッという間に、「後から振り返ると、かなり恥ずかしい流行」 の
仲間入りを果たしました。

1997年のG2日経新春杯を1番人気で制したメジロランバダは、
前述の南米生まれのダンスミュージックが、馬名の由来となっています。
それにしても、メジロランバダが生まれたのは1993年、
競走馬デビューしたのは1996年で、
ランバダブームは完全に過ぎ去っていたはずです。
では、何故この馬名が付けられたのか?
おそらく、1993年生まれのメジロ牧場所有の牝馬には、
メジロダンス、メジロソシアル、メジロステップなど、
ダンスにまつわる馬名を持つケースが多く、その一環として、
数年前に爆発的なブームとなっていた、「ランバダ」 という名前が、
父テリオス、母メジロマリーンの牝駒に付けられたのでしょう。

馬名からすれば、すぐに消えてしまう感もあったメジロランバダですが、
4歳1月の日経新春杯制覇以降も活躍を続け、
5歳時にはG3中山牝馬Sを勝ち、ダートG2エンプレス杯で2着。
1998年11月のラストラン、G1エリザベス女王杯まで、
全22戦を粘り強く走り抜きました。
その、やや軽薄な馬名の印象とは裏腹に、
地に足の着いた競走生活を過ごしたメジロランバダ。
華やかさには少々欠けるかもしれませんが、
1990年台後半の日本競馬を彩った
名牝の一頭であることは、間違いのないところです。

(次回は1月19日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉