酔いどれ対談
第1回
藤澤"諸葛孔明"に"三顧の礼"のお願い
 

 

日本、アメリカ、ドバイと3カ国をまたにかけた
カジノドライヴの世界挑戦キャンペーン、結果はともあれ
日本競馬に強い刺激となったのは間違いありません。
山本オーナーを駆り立てたものはいったいなんだったのか?
対談本編第1弾は、成駿さんがその本質に迫ります。

駿

山本さんは非常に海外志向の強いオーナーとして知られています。
いつごろからそう思うようになったんですか。

最初からですね。
馬主登録したのが2004年だったんですが、
そのときには海外をめざそうって決めていました。


 

駿

そうすると、オーナー歴はまだたったの5年?

はい、5年目を迎えたばかりのまったくの新参者です。

駿

長い間、私も競馬サークルを見てきたが、
普通は海外遠征というと、
日本のG1をいくつも勝って
功成り名を遂げたオーナーが、
“ご褒美”みたいなことで行くケースがほとんどです。
馬に“ご褒美”のありがたみが
伝わっているかどうか知りませんが(笑)、
厩舎スタッフには海外競馬を体験できる
いいチャンスですからね。
そういう意味で“ご褒美”なんです。
しかし、山本さんはカジノドライヴのような
新馬戦を勝っただけの馬を
平気でアメリカまで連れて行く。
1月に条件レースを走っていた馬を
3月のドバイ・ワールドカップに
自信を持って出走させる。
これはもう“ご褒美”なんかじゃない。
はっきりと挑戦ですね。
こういう考え方は
いままで日本の競馬界にはありませんでした。

いや、10年以上前に(1995年)、
藤澤(和雄調教師)先生が
クロフネミステリーという
1500万下(現1600万下)を勝ったばかりの馬で、
アメリカのディスタフH(G2)で
3着に健闘させていますよ。

駿

そうそう、岡部幸雄(騎手)が乗ったんだよね。
後に海外のグレードレースを勝ちまくる
藤澤調教師にとっては、
このときが初めての海外挑戦でしたね。

はい、そう聞いています。

駿

でも、こんなふうに一見、
無謀とか非常識に見える挑戦は
藤澤和雄という偉大な伯楽だからこそできたんで、
これは規格外でしょう。
日本の競馬サークルの辞書には
そんなことは書かれていない。
今回のカジノドライヴの一連のキャンペーンも同じで、
山本オーナーと藤澤調教師は
辞書にないことをやり遂げたと思いますよ。
ところで藤澤調教師とはどういう経緯で知り合ったんですか。
山本さんは企業人であり、
競馬界に人脈があったわけじゃないですよね。

はい。でもかねがね藤澤先生は
世界から学び世界を知り尽くした方だと尊敬していましたので、
馬主登録を済ませたその足で、
まっすぐ先生をお訪ねしました。

駿

もう待ちきれない気分だったんだ(笑)。
すぐに馬を預かってくれないか、と…。

いえ、それがそうじゃなかったんです(笑)。
私が競走馬オーナーになる理由とか、
それをとおして向かいたいところとかを
延々とお話させてもらいました。
先生はお忙しいのに、ご迷惑もかえりみずにね(笑)。

駿

山本オーナーとしては、
世界をめざす意気込みを、
なんとしても藤澤調教師に伝えたかった、
説得したかった…?

いいえ、そうじゃありません。
まったく逆です。
私が先生のもとを訪れたのは2004年の暮れですが、
その年を含めて藤澤先生は10年連続で
リーディングトレーナーの座を占めていました。
年度代表馬も続々と輩出していました
(98年タイキシャトル、02年・03年シンボリクリスエス、
04年ゼンノロブロイ)。

駿

そうでしたね。
日本一の調教師、天下無双の名伯楽、
まさにそういって過言じゃない実績を残していました。

そういう藤澤先生ですから、
当然のように多くの先輩馬主からも引く手あまたですよね。
新参者の私のために馬房をあけることは、
そう簡単な話じゃありません。

駿

馬は走らせてナンボ、
厩舎のみんなの生活がかかっていますからね。
鬼が出るか蛇が出るか、
海のものとも山のものともしれない海外挑戦のために
『はいそうですか』と簡単に馬房を空けたりできないわけだ。

そうなんです。
それに私は最初から海外をめざしたいといっている。
成功か失敗かといえば、
失敗する確率が圧倒的に高い。
藤澤先生には厩舎経営の面からも
リスクを背負ってもらうことになります。

駿

“三顧の礼”じゃないけれど、
山本オーナーのすべての思いと、
それを受けることで発生する可能性のある、
藤澤調教師が背負うだろうすべてのリスクを
諄々と明らかにしたわけだ。

はいそうです。

駿

それで、“諸葛孔明”藤澤和雄はなんといいました。

『山本さん、海外挑戦って簡単じゃないよ、
 あなたの想像をはるかに超える難しさだよ』
と柔和な笑顔でしたが、
しっかり釘を刺されましたね(笑)。

駿

ハッハッハッ(笑)。
そうでしたか。
侠気あふれるエピソードですよね。
そういうのって私はたまらなく好きですよ。

 

成駿さんのお得意の分野『三国志』に
天下を志す劉備が
諸葛孔明を軍師として迎えるために
誠意を尽くして三度にわたって訪れ
遂に孔明をうなずかせる有名なエピソードがある。
清水さんは、山本オーナーと藤澤調教師の
出会いにそんな強烈な印象を持ったようである。
(明日につづく)

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