酔いどれ対談
第36回
余暇の時代、そして競馬(4)
 

 

日本では庶民が食うや食わずの時代に
イギリスでは産業革命が進み
余暇の王様・ダービーが誕生した。

駿

まぁ、競馬はもともとが王侯貴族、
ジェントルマンの遊びではあったが、
仕事以外の自由な時間を自分のために使う
という思想が根づいていた事実は、
認めなきゃいかんだろうと思いますね。
しかし、その対極には、
“ノブレス・オブ・リッジ”、
高貴なるものの義務が社会的に存在した事実もあった。
というのは、普段は領地や海外植民地から上がってくる
年貢みたいなもので安穏と暮らしているんだが、
一朝ことあれば自らが最前線で敵と切り結ぶ。
ジョンブル魂ここにあり、気概があります。
そうでないと領民から尊敬されない。
尊敬されなければ統治もうまくいかない、
だからある意味、彼らも必死なわけですよ。

一説に英国軍将校の死亡率が以上に高いという伝説がありますね。
本当だとしたらそうした思想的背景があるからなんでしょうね。
遊びと社会的責務が表裏一体だった。

駿

そういう面もたしかにあると思います。
しかし反面、遊びは自分の時間を
自由に使える人々にしか許されなかった。
有閑階級ですね。
誰が発明した言葉か知らないが、いい得て妙です(笑)。
ちょっと意地の悪さが透けて見えるのですが、
開き直っちゃえば、人類みな有閑階級、
それって理想じゃないですか(笑)。

まったくそうですね。開き直りましょう(笑)。
有閑階級は英語では“レジャー・クラス”というらしいですね。
これって最高のネーミングですよ。

駿

そりゃいい。またまた、いい得て妙ですな(笑)。
そのレジャー・クラスというのを
創りだしていくのが政治の仕事だろうし、
企業の使命みたいなことですよ。
かつてのイギリスのように植民地経営に頼るのではなく、
自ら富を生み出して、それで国が豊かになって、庶民が潤い、
余暇を存分に楽しめるようになれば理想だろうと思いますね。

余暇の時間を創りだすというか、
その点で松下幸之助さんなんか偉いと思いますね。

駿

ナショナルですか?

ええ。
日本も西欧に追いつけ追い越せと国は豊かになっていきますね。
ところが庶民は仕事に追いまくられて余暇どころじゃない。
とくに女性ですね。
昔は掃除とか洗濯とか大変な重労働じゃないですか。
ひとりふたりでも大変なのに、大家族が普通の時代でしたからね。
朝から夜中まで働きどおしです。
私の母なんかも自営業ですから
そちらの仕事もしながら家事をこなしていた。
子供心にも大変だなと思っていました。

駿そこへスイッチひとつで飯が炊ける、掃除が片づく、
洗濯も手をわずらわせないで済んでしまう。
そういう家電製品が登場してきて、
日本の女性に福音をもたらしたわけですね。
そうです。
寝る暇も惜しんで働いていた女性が、
ある日、突然に自由な時間を手に入れることになった。
余暇の時代を語る上で、すごく重要なターニングポイントですね。
 

(あしたにつづく)

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