酔いどれ対談
第11回
世界にまなび世界をめざす(中編)
 

 

エプソムダービー観戦に出かけた山本さん、
そこで驚くべき事実に遭遇する。
さて、山本さんをビックリさせた出来事とは…?

駿

エプソムダービーで、
普段はものに動じない山本さんを
驚かせた光景とはなんだったんですか?

競馬場に着いて、
レーシングフォーム(出馬表)を見ると
ダービーの出走馬がたった14頭なんですね。

駿

日本ならフルゲートが当たり前になっている(笑)。

そうなんです。
不思議に思ってたずねてみると、
なんでミスター・ヤマモトは
そんなことを聞くんだと
怪訝(けげん)な顔をされちゃいました(笑)。

駿

怪訝な顔ですか?

はい、前日に行われたオークスは
7頭だというんです。
それが向こうの人の感覚では
当たり前になっている。
そんなことを不思議がるお前のほうが
おかしいという論理です。


 

駿

日本流にいえば、
もう1頭出ても全馬が賞金圏内だ(笑)。

そうなんです。
馬主になった以上、クラシックレースに
自分の馬を出走させるのは夢ですよね。
それは日本だろうと、どこだろうと
変わらないと思うんです。
ところがあちらはそうじゃない。
出られるのに出さない。

駿

ラムタラのようにキャリア1戦で
ダービーに出てくる馬もいる。
逆に日本風にいえば賞金額が足りていて
出走資格があるのに自重する馬主もたくさんいる。
日本人の感覚ではちょっと理解しにくいんですが、
それはたぶん、
伝統あるレースに対するリスペクト、
尊敬の念からくるんでしょうね。

そうなんです。
さすが清水さん、
非常に造詣が深くていらっしゃる。

駿

私はヨーロッパには
さほど詳しくないんだが、
先ほどちょっとお話した
ケンタッキーダービーなんかでも
レースに対する尊敬はものすごいものがあります。

“ダービー馬かくあるべし”
みたいな基準というか、基本理念というか、
哲学が向こうのホースマンには
浸透しているんですね。
血統はこう、馬体はこう、配合はこう、
という理想に近づいたサラブレッドだけに
資格があると思われています。

駿

まぁ昔から
“ダービー馬はダービー馬から”
といわれていますが、
これは単なる血統論じゃない。
山本さんがおっしゃるような
理想のサラブレッドを
追い求めていくとそういうことになるんだよ、
というジェントルマンたちの常識なわけですよ。

まったく同感です。

駿

そういう中で勝つから価値がある。
“一国の宰相になるより、
 ダービーオーナーになりたい”
というチャーチル元首相の名言も
そういう背景があってこその本音も本音、
思わず溜め息が出るような
実感なんでしょうね(笑)。

日本ダービーとはだいぶ違います。

駿

クラシックレースの本来の意義は、
後世に名血を伝えることにあります。
そのための資格を競うレースなんですね。
ですから、
いくら一世一代の晴れ舞台だからといって、
誰の目にも明らかなスプリンターが出てきたり、
馬格の変な馬が出てきたり、
これは向こうではありえないことです。

判官びいきといいますか、
われわれ日本人はそうした弱点をもったものに
妙に肩入れしてしまうところがある(笑)。

駿

そこをグッとこらえるのが(笑)、
馬主や調教師の見識であり、
美学だと思いますよ。
いくら晴れ舞台だから、
長年の憧れだからといっても、
理屈のとおらないことはやっちゃいけない、
これは欧米人の普通の感覚ですよね。

はい、間違いなくそうだと思います。

駿

そのあたりをしっかり理解していないと
相手にされないぞ、
日本でG1をいくつ勝ったから
ヨーロッパやアメリカに行こう
という話じゃないだろう、
基本中の基本であるホースマン精神を
身につけないと馬が走る走らない以前に
問題にされないぞ、と山本オーナーは
本場のダービーのパドックで考えたんだ。

まったくそのとおりです。

 

(あしたにつづく)

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