海の向こうの競馬、そしてホースマン

第30回
海外のセリ市では日本人バイヤーの強い味方に
 

海外のセリ市に参加する日本人バイヤーにとって、
合田さんは、とても頼もしい存在に映るそうです。
セリ市の主催者から依頼を受けた合田さんは、
セリ会場でセール運営の一翼を担うこともあります。

「たとえば、
 日本人バイヤーが高額で馬を落札した際には、
 その人物がどういう方なのか、
 地元の記者に問われて、リリースの形にして
 お答えすることもあるんですよ」

「まあ、セリ市とその近辺の競馬場のメイン開催
 というのはセットになっているケースも多いですから、
 セールに参加して、その後で競馬を楽しむというのが、
 ぼくの基本的な行動パターンになっている面はありますね。
 セール会場では忙しそうに
 立ち回っているフリをしているだけで、
 実際は大したことはしていないんです(笑)」

合田さんが活躍する舞台のひとつが、
イギリスのニューマーケットで行われる
“タタソールのセール”です。

「10月初旬にフランスの凱旋門賞を観戦してから、
 イギリスに入ってタタソールのセールの
 仕事をこなすというのが、
 毎年のひとつのパターンとなっているんです」

「タタソールのイヤリングセールには、
 大手牧場やごく一部の馬主さんしか、
 日本人バイヤーは参加しませんが、
 繁殖牝馬セールでは、
 幅広い方々に参加してもらっています。
 2008年NHKマイルC、日本ダービーを連覇した
 ディープスカイの母アビも、
 タタソールの繁殖牝馬セールで落札された馬です」

ここで、タタソールのセールに参加した、
とある日本人バイヤーの関係者
(われわれの取材時にちょうどリージェントに
 いらしていました)から、
合田さんに軽い抗議の声が上がりました。

「タタソールのセールでは、
 食事ができるダイニングが設けられていて、
 合田さんの推薦もあって、そこを訪れたのですが、
 正直、味は“ウ~ン、微妙”という感じでしたよ!」

「あれぇ、ぼく、オススメしましたっけ。
 たぶん、別の方じゃないですか。
 もしぼくが味について質問されれば、
 “ウ~ン、微妙”と答えていたと思いますよ(笑)」

ことの真偽はともかく、海外のセールにおいて、
合田さんが日本人バイヤーに、
あらゆる面で頼りにされているかを示す
エピソードではありました。

(最終回に続く)

構成・文/関口隆哉

 

合田直弘氏 プロフィール

1959年東京生まれ。慶応普通部(中学)時代から馬術部に所属するかたわら、千葉新田牧場で「乗り役」としてのアルバイトをこなす。慶応大学経済学部卒業後、1982年テレビ東京に入社。『土曜競馬中継』の制作に携る。1988年テレビ東京を退職し、内外の競馬に関する数多くの業務をこなす(有)リージェントの設立に参加。
現在は、『世界の競馬』(NHK-BS)、『鈴木淑子のレーシングワールド』(グリーンチャンネル)などのキャスターも務めている。

 

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