知恵の言葉

前評判(展開予想)の裏に宝の山あり(後編)

ところが、ミスターシービーの鞍上は、“ドン亀”の吉永正人。
この人、けっしてスタートはヘタではなかったが、
たまたま出遅れてスゴい脚をつかったものだから、
ミスターシービーが “吉永流追い込み馬” になってしまったのだ。
増沢にでも乗り替わっていれば、
当初の思惑どおり希代の逃げ馬になっていたかもしれない。
この増沢には、“増沢マジック” と呼ばれる絶妙の先行テクニックがある。
馬が群れて走るなら、人=騎手も群れたがる
したがって、そこには目に見えない心理戦争がある。
増沢がポンといくと、他の騎手は競りかけないケースが多い。
中日の星野監督は現役時代、たいしたスピードもないのにいいピッチングをした。
「オレは星野だ!」と顔で投げていたからだというが、増沢の場合も顔で乗っている。
だから、他の騎手は競りかけない。
だが、増沢のそんな顔もきかないケースがある。
強引に競りかけてくる騎手がいれば、
展開予想は当人はもちろん、われわれ馬券を買うファンも迷ってしまう。
こうした騎手心理にもっとも影響を与えるのが、“前評判”である。
たとえば、

「このレースは、逃げたい馬が多くてハイペースは必至」

とか、逆に、

「ここはどうみても○○○の単騎逃げでスローペース」

などという例の予想である。
そして、こんな前評判に反発したいのが人間=騎手の心理ではなかろうか。
ハイペース必至の展開なら、
ムリしていっては入着もおぼつかないと控える馬がでてくる。
で、結局は、スタートでポンといった馬が楽々と逃げきってしまったりする。
あるいはスローペース必至、しかも少頭数立て。
こんなレースは、実は逃げ馬がいちばん苦しい。
勝負にならない馬が競りかけてくることもあるが、
スローペースに落としすぎると、後につづく馬は楽々追走でき、
直線一気の勝負にもち込まれてしまうのである。
ともあれ、妙味ある展開予想は、力の予想が優先してしまったときである。
強い逃げ馬がいると、この馬を目標に早め早めに仕掛ける馬がでてくる。
強力な差し馬がいる場合は、
好位をキープしたグループが前を気にせず強力な差し馬をマークする。
しかし、馬券作戦としては、こうした展開予想のウラを読まなくてはならない。
いずれにせよ、展開=ペースは、強力馬や人気馬がつくると考えればいいだろう。
力と力が接近していれば、展開の利、不利はかなりの部分を占める。
90年、第50回「皐月賞」で逃げ切れなかったアイネスフウジンが、
第57回「ダービー」を逃げきったのも、これも紙一重の展開のアヤなのである。

・・・次回はいよいよ最終話「格上挑戦、次走はいらず」をお送りします。
金曜日の更新をお待ちください!

東邦出版発行『知って得する競馬の金言』より
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