3歳となった2000年5月に競走馬デビューし、
15戦3勝の戦績を残した、ベビーグランドという牝馬がいました。
OP特別・紫苑S出走経験はあるものの、キャリアのほとんどを
1000万下 (旧900万下) で過ごした地味な競走馬でしたが、
中学生のころから大ファンだった、
ポップス界のスーパースター、ビリー・ジョエル “Billy Joel” が、
ソウル界の大御所、レイ・チャールズ “Ray Charles” と共演した
名曲 『ベイビー・グランド “Baby Grand”』 と馬名が一致することから、
デビュー戦を勝ったときから、かなり注目していた馬だったのです。
ビリー・ジョエルとレイ・チャールズの
デュエット曲 『ベイビー・グランド』 は、
ふたりのスーパースターが、互いを尊重するように掛け合いをしながら、
紡ぎ上げられていくソウルフルなバラード。
個人的には、数多くの傑作がある、ビリー・ジョエル作品のなかでも、
最上級に位置する曲だと思っています。
まあ、競走馬ベビーグランドの名が、
本当にビリー・ジョエルの曲名に由来しているかは、
定かではないのですが、
ベビーグランドの一族に、
魅力的ネーミングの馬たちが数多くいるのは、間違いのないところです。
まず、「一体、ケイティは何をしたんだ!」 という意味になる、
輸入繁殖牝馬である、母ホワットケイティディド “What Katy Did” の
馬名がユニーク。
さらに、ホワットケイティディドの産駒には、
ジェームス・キャメロン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の
傑作スパイアクション映画と同名の
トゥルーライズ “True Lies” という4勝馬もいます。
ホワットケイティディド産駒のなかで、飛び切りの大物となったのが、
ベビーグランドの7歳下の半妹にあたる
スリープレスナイト “Sleepless Night”。
「眠れぬ夜」 という意味深な意味を持つ、この馬名は、
父クロフネ (=黒船) に因んで名付けられたもので、
「泰平のねむりをさます 上喜撰 (=蒸気船) たった4はいで、夜も眠れず」
という、江戸末期の黒船騒動を揶揄した狂歌から来ているそうです。
スリープレスナイトは2008年のG1スプリンターズSを、
単勝2.4倍の圧倒的1番人気で制し、初G1制覇を飾るのですが、
鞍上の上村洋行騎手も、このレースが、デビュー17年目にして、
初のG1戦勝利となりました。
好位追走から抜け出し、スリープレスナイトを勝利に導いた
上村騎手の手綱捌きは、見事なものでしたが、
おそらく、スプリンターズSの前日には、
緊張と昂揚感で、「眠れぬ夜」 を過ごしたのではないでしょうか。
(次回は10月5の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉