重馬場をものともしない、気風の良い逃げを見せ、
追い込んできたロイヤルコスマーを半馬身差抑えた、
1985年のG1桜花賞馬エルプス。
桜花賞以外にも、桜花賞TRであるG2・4歳牝馬特別、
古馬相手のG3京王杯オータムHを制したエルプスは、
同年の3歳牝馬チャンピオンに選出されました。
名牝エルプスの英語表記は “Erebus”。
発音は大分違っていますが、
この馬名は、南極大陸に存在する、
世界最南端の活火山であるエレバス山 “Mount Erebus” に
由来しているそうです。
南極大陸の最高峰でもあるエレバス山の標高は、
富士山よりも少しだけ高い3,794m。
その火口には、世界でも大変に珍しい、
恒常的に形成されている溶岩湖があります。
また、1979年に起きた
ニュージーランド航空機墜落事故の現場となったことで、
エルバスは 「鎮魂の山」 としても知られています。
3歳11月のG1エリザベス女王杯がラストランとなったエルプスは、
繁殖牝馬として8頭の産駒を出産しました。
直仔からは、自身のような大物は出ませんでしたが、
第2仔となるリヴァーガール “River Girl” が、
阪神3歳牝馬S、桜花賞、秋華賞と
G1レースを3勝した超大物牝馬テイエムオーシャン “T.M. Ocean” の
母となっています。
祖母エルプスの名の由来となった
南極大陸最高峰エレバス山から流れ出でた川 (リヴァーガール) が、
やがて大洋 (テイエムオーシャン) へと繋がっていく。
この母娘3代に渡る流れのなかで、
2頭もの桜花賞馬が誕生したことは、
日本競馬史に残る快挙と言えるでしょう。
祖母エルプス同様、
2001年の3歳牝馬チャンピオンに選出されたテイエムオーシャンも、
現在は繁殖牝馬となり、産駒を送り出しています。
これまでのところ、重賞級の仔は登場してきていませんが、
いつの日か、その直系の一族から、
祖母や自身のようなクラシックホースが誕生するかもしれません。
なにせ、母系の祖であるエルプス (=エレバス山) は活火山。
爆発的な能力を誇る、新たなる大物を生み出すためのエネルギーは、
十二分に蓄えているはずです。
(次回は4月13日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉