世界の中のニッポン ニッポンの中の世界

ジョン・マコーマック

ジョン・マコーマック氏プロフィール

1967年、アイルランド・ダブリン生まれ。
アイルランド・イギリス・アメリカ・オーストラリア・カナダの厩舎・牧場での経験後、ヨーロッパ大手サラブレッド商社・BBAアイルランドにてエージェントとして12年間勤務、10年前に独立。
日本関連ではこれまでに、シンコウフォレスト、タップダンスシチー等のGIウイナーを発掘。また繁殖ではウインドインハーヘアー(ディープインパクトの母)を日本に仲介。今年もすでに2回来日をしている知日派。

第9回 「競馬発祥国の夢」

世界で一番厳しいイギリスの競馬。
しかも賞金は高くない。
それを支えているのは、夢を追うホースマンたちだった。
―― 日本の競馬と世界の競馬とは、
           これまでの伝統の重みなども含めて、差がありますか?

ジョン氏(以下)

イギリスは競馬発祥の地で、
あそこは世界で一番競争が激しい。
イギリスで強い馬が、
世界で一番強いと言っていいと思います。
アメリカだろうが、オーストラリアだろうが、香港だろうが、
日本以外の国なら、
イギリスの強い馬を買って自分の国に持って帰れば、
必ずチャンピオンになれる。
それだけイギリスの競馬は厳しいんです。
なのに恐ろしく賞金が安い(笑)。
でも、それでいいんです。
イギリスでは、競馬はスポーツという認識で、
お金ではないんですから。
先日、イギリスのニューバリーという競馬場で、
初出走の2歳馬が7馬身差で勝ちました。
それを買いにいったんですが、
80万ポンド(約1億3000万円)で売ってくれ、
とオファーしたら、
「NO」と言われました。
もう、それはお金じゃなくてオーナーの夢なんですね。
イギリスの競馬は、夢の上に成り立っているんです。
その馬を売ってしまえば、
夢がたかだか1億円ちょっとで終わってしまう。
そういうものではないんですね。
イギリスでは、5勝ぐらいはしないと
馬の値段はペイできないんですが、
イギリスで5勝するのはほんとに大変。
日本で5勝もすれば
だいたい馬の値段を上回るケースが多い。
イギリスで馬を持っている人は、
本当に馬が好きで、競馬が好きなんです。
そうじゃなきゃ、こんなことやってられない。
馬を持ってれば、お金を失うのは当たり前。
それでも続けている人っていうのは、
スポーツマンとして尊敬されるんです。



 

―― イギリスは、エプソムダービー馬は国外に出しますよね?

J          

あるイギリスの牧場関係者に
「ジョン、イギリス人として忠告する。
どんなエプソムダービー馬でも
好きにトレードしてもかまわない。
でも、スピードもあって結果も出している
ウォーニングのような種馬を
イギリスから持ち出すのはやめてくれ」
と言われたことがあります(笑)。
それが、彼らの本音みたいですね。

―― 日本は、欧米に比べて遅れていると思いますか?
生産とか繁殖ということに関しては、
日本は欧米に遅れをとっているかもしれないけど、
興行という意味での競馬では、
日本は世界で最高だと思いますよ。
イギリスは、伝統にこだわりすぎて、
競馬が衰退しつつある。
伝統を重視しすぎるのも良くないんです。
 

(つづきは金曜日に更新します) 取材/J-horseman編集部